2016.4.5 妊娠・出産を理由にした降格は違法だと知っていますか

公開日: : 最終更新日:2016/04/16 大変なことになった! ニュース速報

【毎日新聞 経済プレミア より】

 

女性の社会進出が進み、政府も女性活躍に関する政策を積極的に推進しています。一方、職場では「マタハラ」をはじめ、セクハラやパワハラなどのハラスメント(嫌がらせ)問題がたびたび起こっています。さまざまな立場の人が働く職場をまとめる管理職やリーダーにはハラスメントに関する知識や対策が求められる時代です。特定社会保険労務士の井寄奈美さんが、職場のハラスメントについて解説します。

連合調査で妊娠女性の28.6%がマタハラ被害に

「マタハラ」が一気に世間で認知されたのは、2014年10月のマタハラ訴訟最高裁判決からでしょう。妊娠して軽易業務への転換を求めた病院勤務の女性が、部署異動の際に降格されたことにつき、「降格は男女雇用機会均等法に反する」として、病院に賠償を求めた裁判でした。最高裁は「妊娠中の軽易業務転換を契機として降格させる事業主の措置は原則として均等法に違反する」という判断を初めて示し、ニュースで大きく報道されました。

マタハラとは、妊娠・出産に関係する女性に対するハラスメント行為を指す言葉です。働く女性が妊娠・出産を理由とした解雇・雇い止めをされることや、妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的な嫌がらせのことです。

連合が15年に実施した調査によると、マタハラの認知度は93.6%に達していました。妊娠・出産を経験した女性の28.6%が「マタハラ被害にあった」と回答しています。内容は、妊娠・出産をきっかけに解雇、雇い止め、退職勧奨にあった(11.5%)▽妊娠中や産休明けなどに、心ない言葉を言われた(8%)▽妊娠中・産休明けに残業や重労働などを強いられた(5.4%)−−でした。

マタハラが起きる理由には、「男性社員の妊娠・出産への理解不足」「会社の支援制度設計や運用の徹底不足」が挙げられます。世の中には依然として「結婚、妊娠、出産をしたら女性は家庭に入るものだ」「子育ては女性の仕事だ」という考えを持つ人が多いようです。それを自分の家庭で求めるのならともかく、職場の女性社員に押しつけることは、上司や同僚としての権限を超え、法律に違反することになりかねません。

妊娠・出産女性を保護する「労働基準法」と「均等法」

妊娠・出産した女性は、いくつかの法律で保護されます。そのなかでも、職場に関係する大事な法律が「労働基準法」と「男女雇用機会均等法」です。

労働基準法は、妊娠した女性は、業務の軽減を会社に申し出ることができると定めています。また、男女雇用機会均等法は、妊娠・出産を理由に会社が解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いをすることを禁止しています。

最初に述べたマタハラ訴訟は、この二つのテーマで争われました。

舞台は広島市の病院です。副主任だった理学療法士の女性が第2子を妊娠し、妊娠中は軽易な業務への異動を希望しました。病院は希望を受け入れ、女性を訪問リハビリの職場から、病院内リハビリの業務に異動させました。その際、副主任の役職を外したため、月額9500円の役職手当が支給されなくなりました。

その後、女性は産休と育児休業を取得し、元の職場(訪問リハビリ)に復帰したのですが、副主任の役職が外されたままでした。そこで女性は、降格が妊娠・出産を理由にした不利益な取り扱いにあたるとして提訴したのです。

妊娠による降格は原則禁止と判断した最高裁

一般的に言って、妊娠・出産を理由に、本人の申し出がないのに会社の都合で異動させたり、異動後も同じ業務をしているのに、同意なく役職を外したりすることはできません。これらは、均等法に定める「妊娠・出産を理由とする不利益な取り扱い」に当たるからです。

2015年11月18日付の毎日新聞大阪朝刊

2015年11月18日付の毎日新聞大阪朝刊

 

この裁判では、女性の降格が、均等法で禁止されている不利益扱いにあたるのかどうかが争われました。

最高裁は14年10月の判決で、「妊娠による降格は原則禁止で、(1)自由意思による同意(2)業務上の必要性や、法律に反しない特段の事情−−がなければ違法で無効」という基本的な判断の枠組みを示しました。

そのうえで、裁判は広島高裁に差し戻され、降格の必要性があったかどうかを改めて審理しました。その結果、広島高裁は15年11月、「(降格について)本人の承諾があったとは言えない」として、降格を違法とする判決を出しました。

判決は降格について「女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と指摘。支払われるべきだった役職手当、手当の不支給で減額された出産手当金・育児休業給付金の差額など、計175万円(うち慰謝料100万円)を女性に支払うよう、病院に命じました。

差し戻し控訴審判決後の記者会見で感想を語る原告代理人の下中奈美弁護士(左)=2015年11月17日、山田尚弘撮影

差し戻し控訴審判決後の記者会見で感想を語る原告代理人の下中奈美弁護士(左)=2015年11月17日、山田尚弘撮影

会社は説明義務を果たし、労働者に心から納得してもらうこと

裁判所は、部署変更の際、病院が女性に▽管理職の地位を失うことや、管理職手当の支給を受けられなくなる不利益▽復帰後再度副主任の役職に就けるかどうか▽管理職から外れることによる業務の軽減など、女性に有利な点をきちんと説明していなかったことを重視したのです。客観的に考えて、女性の降格は合意するために必要な情報が当事者に説明されないまま行われたものだ、と判断したのです。

会社には人事権があります。しかしこの裁判で争われた、均等法9条に定める「不利益取り扱いの禁止」は、会社が持つ人事権を制約するものと考えられます。ただし、最高裁は、妊娠・出産などに伴う降格を全面的に禁止しているわけではなく、例外に当てはまるようであれば可能、という判断を示したとも考えられます。

会社としてやるべきことは、人事上の都合で労働者に不利益となるような取り扱いをせざるを得ない場合、説明義務を果たし、本人に心から納得をしてもらうことです。

 

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