事例6 「ハラスメント相談室」が失敗する理由

公開日: : 最終更新日:2016/10/03 円満解決事例

寝耳に水にならないためには、とにかく、社内のよろず相談室に「気軽に」相談に来てもらうことだと、前項でお話ししました。そうすると、「この会社は安心して働ける」「社員思いの会社だ」と信頼感を持ってもらえて、強いロイヤリティで働いてくれる社員が増えるでしょう。

ですが、「ハラスメント相談室」とか「心理相談室」とか、「コンプライアンス室」とかの名前を付けてはいけないという事例をご紹介します。

 

1例目は「ハラスメント相談窓口の危険を踏まえて解決した事例」

2例目は「健康管理室の心理相談員の危険を踏まえて解決した事例」です。

 

★まず、1例目から。「ハラスメント相談窓口の危険を踏まえて解決した事例」

私は以前、ある大学の中のハラスメント相談室で、ハラスメント専門相談員という仕事をさせていただいていました。当時は全国の大学でも2番目の「ハラスメント相談室」の開設で、画期的な試みでした。私は、そこで、「ハラスメント相談室のメリットとデメリット」を学びました。

そして、そこで出会った相談者のほぼ100%の方が、当然ながら「ハラスメントに遭っています!」とおっしゃいます。

例えばこんな相談がありました。

Aさん:「先生から『君は研究者にはなれないよ。諦めなさい。退学したら?』と言われてすっかり落ち込んでいます。私の成績が悪いからいけないのですが、先生の言い方はひどすぎます。これってパワハラですよね!研究者にならないと、親を悲しませることになるんで…。」と。

Aさんの場合、先生の「退学したら?」という言葉だけを取ると、【退学勧奨】という点でパワハラにあたりますが、だからと言って、Aさんは、先生をパワハラで訴えたいというのが第一の要求ではないかもしれません。この方の場合、何回かじっくりお話をお伺いして、わかったことは、「親の敷いたレールに乗せられてここまで来たけれど、自分が本当にこの分野でやっていきたいのか?」ということに悩んでいる、ということでした。

そこで、私から、「それを解決してから、パワハラ問題についての解決に進んでは?」と提案すると承諾され、何回か【キャリアカウンセリング】をしました。結果、Aさんは、研究分野を変えて、他の大学に編入学することを決心し、勇気を出してご両親と先生にそれを言いに行かれました。先生に「先生の言い方はハラスメントらしいですよ」と、チクリと刺すことも忘れずに(笑)


「退学勧奨」、企業で言えば「退職勧奨」は、ハラスメントです。

「お前の代わりぐらいいくらでもいる」

「給料泥棒!お前なんか辞めちまえ!」

「全く使えないやつだ!転職したら??」

これらがそうです。人事権もないのに、ただ上司と言うだけで、ここまで言ってはいけません。ハラスメント相談員は、必ず、相談者に「それは退学勧奨というハラスメントですよ。」と説明しないといけません。

しかし、訴えるかどうかは別の問題です。ここが危険なのです。ハラスメント相談員という肩書で相談に乗ったら、「ハラスメント」に引っ張られる危険があり、その人の本当の要求や幸せを見逃してしまう恐れがあるのです。

社内でハラスメント相談員に任命された方が、よくしてしまう失敗は、その責任感の強さから、「相手を訴えますか?どうしますか?」と相談者に決断を迫ってしまうことがありあます。訴えが出されると、会社は解決のフローに乗せることになります。中には、「ハラスメント相談員がこんなにも親身になってくれているので、訴えた方がいいのかな?」と考えてしまう相談者もいたりします。

ハラスメントかどうかの視点はしっかり持ちつつ、解決方法は相談者の立場に立って柔軟に持ち合わせないといけません。

 

 

★2例目は、逆のパターン「健康管理室の心理相談員の危険を踏まえて解決した事例」です。

企業の相談室で心理カウンセラーをさせていただいていた時には、こんな相談が来ました。

Bさん:「最近眠れないんです。仕事の量が半端なくて。やってもやっても終わらないんです。もう辛すぎます。会社に来たくないんです。私、うつ病でしょうか?」

心理相談室ですから、自分の問題として相談に来られる方がほとんどです。事例のような相談に対し、心理カウンセラーという肩書で相談に乗ると、「うつ病」に引っ張られます。自殺念慮はないか?どのくらい眠れないのか?食欲はどうか?今すぐに休職が必要なレベルか?精神科医に繋げようか、この人のストレス耐性はどれくらいか、などなど。

しかし、よくよく話をお聞きすると、Bさんの上司のF課長は、仕事の指示があいまいで、質問すると『自分で考えろ!』と怒鳴り、結果を出してもBさんを褒めるどころか、次々に仕事を押し付けてくるということがわかりました。そして、『体調管理もできない社員はいらない!辞めちまえ!』が口癖で、有休もとれない状態です。

これは、明らかにパワハラです。

それをBさんに説明すると、「私が弱いからではないのですね!ホッとしました。」と初めて笑顔になりました。翌週にお会いしたときは、「今週はぐっすり眠れました」とのこと。Bさんの承諾をもらって、F課長の上司のK部長に来ていただき、BさんもF課長も抜きで作戦会議です。

私から、

「F課長のマネジメントスタイルを放っておくと、ハラスメント問題に発展する恐れがある」

「F課長とBさんの間に立って、仕事量の調整をしないと、Bさんに休職や退職の恐れがある」この2点を伝えた上で、K部長からF課長に指導していただくストーリーをお伝えしました。

結果、F課長は会議室でK部長に「パワハラについて」お灸を据えられたものの、Bさんからは「ハラスメントで訴えられることなく」、マネジメントスタイルを改善することになりました。Bさんは、人事異動の際に隣の課に異動になりました。Bさんのおかげで、他の社員もF課長のハラスメントから救われました。

F課長には、マネジメント相談にいつでも来てくださいと、K部長を通じてお知らせしました。まじめな熱血漢のF課長は2回ほど恥ずかしそうに、私を訪ねてくださいました。

私から「F課長もBさんも、この会社を愛する気持ちは同じなのですね。ただ、ちょっとボタンが掛け違ってしまいましたね。」とお伝えし、褒め方や指示の出し方のコツをお伝えしました。

こちらの例は、心理カウンセラーという肩書で、本人からうつ病相談があっても、それに引っ張られずに、本当の原因はパワハラ上司であるという視点で、解決に至りました。

 

AさんとBさんの事例で、お分かりになっていただけたでしょうか?

パワハラ相談窓口なるものを作ってしまうと、社員は「ハラスメント事件が起こってからしか相談しにくい」し、心理相談室なるものを作ってしまうと、社員は「うつ状態などの健康面での心配がないと、相談しにくい」のです。

ハラスメントとメンタルヘルスは密接に関係していることが多く、別々に存在するよりも、前項でお話ししたように、EAPのような「よろず相談窓口」を設置して、どんどん相談件数を増やすのです。それが、「予防」に繋がります。「対処療法」から「予防」にシフトチェンジすることをお勧めします。

 

 

☆ポイント☆

(ア)パワハラ相談窓口や心理相談窓口は、病院と同じで、「対処療法」しかできないというデメリットがある。

(イ)ハラスメント事件や、休職・退職、自殺者を出さないために、あらゆる人的な悩みに対応する「よろず相談所(EAP)」を開設する。

(ウ)「予防」が全て。休職者や自殺者が出てからの対処は、本当に大変。

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